発狂練習

いち大学院生の嘆きの壁

軽蔑されるより、軽蔑されているという事実を認める方が辛い

後記(1):「私」と「自分」が混在していてみっともないから直したいんだけど、どういう原則にするか、あとで考えよう。
後記(2):私がどこの誰であるか気づいた方、所属についてはコメント欄その他に書かないでください。尊厳も何もかもズタズタにされているけど、研究までは奪われたくないので。


私の在籍している研究室の院生・学生は、ただいま9人。自分以外全員が男子。


研究室に所属している大学四年生や大学院生の最大の関心事は、就職・進学・進学+就職 あたりにある。分野が物理寄りの工学なので、当たり前といえば当たり前のなりゆきである。彼らの「人間関係をどのように作るか」「人間関係はどのようであるのが望ましいか」は、「就職に役立つか」「進学に役立つか」から逆算される。
私はいろいろと事情があり、売文家としてキャリアを作った後で博士課程に進学するなりゆきになり、ただいま研究は遅れに遅れている。研究の世界で、特に「業績」といえる業績があるわけではない。売文家として「新聞で紹介される」「TVに出る」といった誰でも納得する実績があるわけでもない。「大企業に勤務している」といったハクを持っているわけではない。しかも女。事実婚を二回やって失敗した。子どもはいない。浪人も留年も就職もしたことのない学生・院生たちは、自分の息子であってもおかしくない年齢にあたる。


さて、現在M2の院生が一人、私に露骨な軽蔑や敵意をぶつけてくる。X様としておく。本当は「X君」というべきところだが、相手があまりにもエラソーなので「様」をつけておく。X様は世渡りは上手だ。成績はよい。研究もできる。世渡り上手なX様が私に軽蔑や敵意をぶつけてくるのは、私が権力も何も持っていないからだ。研究室というところには、
「PIに嫌われていない人は誰に何をしてもよい(ただし、セクハラやアカハラということにならない程度に)」
という暗黙のルールが簡単に出来上がる。X様がM1でその研究室に入ってきた時には私はD2だったのだが、D1の時に仲良くなれたM2やD3がまだ残っていた。X様は私に軽蔑や敵意をぶつけてきたけれど、私は相手にしなかった。それで済んだ。


今年4月、自分にわりあい好意的だったM2やD3が全員いなくなってしまった。X様は私に対して、さらに露骨に軽蔑・敵意・無視などをぶつけてくるようになった。息子でもおかしくない年齢の男にそんなことをされる惨めさを、どう言い表したらいいだろうか。なにより、自分がそんな目に遭っているということを自分が認めたくなかった。何をされても何を言われても「相手にしない」「表情を動かさない」で対応した。X様は態度をエスカレートさせていった。「セクハラ」「アカハラ」というレベルまでエスカレートすれば、大学の学生相談室にでもPIにでも「なんとかしてください!」と言えるのだが、X様はそこまでバカではなかった。


ただし私はこれでも大人なので、研究室の損得を考える。
「世渡り上手で成績よくて研究ができるX様」
が、研究室に非常な貢献をしていることは認めざるを得ない。研究室のメンバーが
「(男社会的意味限定)世渡り上手・成績優秀・研究も優秀 を競い合って、そうではない人間は痛めつけてよい」
ということにすれば、「痛めつけられる側になりたくない」という理由からも研究室のメンバーが競争し、努力する。研究室の業績は上がるし就職実績も上がる。それ自体は、研究室としては大変好都合なことである。X様の価値観や気分に研究室のメンバーが同調することは、そういう意味では正しい。彼らがいずれ出て行く社会は男社会なので、男社会で生きるのに有利な何かに研究室のメンバー(ただし自分以外の全員)が同調することも正しい。
「出身者が企業の中で活躍しています」
が研究室にとって悪いことであるわけはない。


私にとっての救いは、X様に「私を痛めつけろ」と命じたのがPI自身というわけではない、ということ。PI自身は、私に少しでも落ち着いて研究を行って成果を上げられるように配慮を惜しまない。ただ、PIの前では、X様は私に対する軽蔑をあからさまにしない。PIは実態を知ろうとしても知ることの出来ない立場にある。だいたい、
「息子でもおかしくない年齢の院生にいじめられています」
って、恥ずかしくて誰にも言えない。そんなことを言わなくちゃいけないということ自体が惨めすぎる。


私は研究室にいるとき、X様が近くにいるだけで惨めな気分をつのらせるようになった。X様が近くにいると、研究室の他の誰とも挨拶以外の会話は出来ない。私が何か一言言うと、X様がその十倍の言葉で否定にかかってくるからだ。X様がいないとき、私と会話しようとする学生・院生はいるのだが、私はもう萎縮してしまって、研究室では口から言葉が出せない状態になっていた。


この11月、大学院問題・ポスドク問題・科学コミュニケーションなどを考えるミーティングに参加した。ちょっと遅れて会場に参加した。X様と髪型と顔の形がそっくりな人の姿が斜め前に見えた。私は「彼も来てるのか」と怖くなった。気付かれないうちに出て行こうと思ったのだが、すぐ近くに友達がいて私に気づいて笑いかけた。私も笑いかえした。出て行くきっかけをなくした。恐怖で心臓をドキドキさせていた私は、ちょっと落ち着いた。落ち着いたら、そこで行われているディスカッションの内容が耳に入ってきた。休憩時間、X様に似た人が立ち上がって顔をこちらに向けた。髪型と顔の形が似ているだけの別人だった。
その後、全員が自己紹介する時間があった。その時には、私はかなり落ち着いていて、かろうじて声を出して自己紹介ができた。さらにディスカッションが行われた。私はディスカッションに参加して話すことができた。


研究室の状況は、相変わらずである。今のあり方が最適解になってしまっているので、変わりようがないのである。